最強のスケット パン職人デトロ

◎ エッセイ

 

○ パン屋経営者・パン職人(人) 08/03/2017

最強のスケット

 

パン職人を定年退職した。
これからは何時に起きても構わないのに朝3時に起きてしまう。
ゆっくり余生を楽しめば、いいのに。
腕がうずうずしてしまうのだ。

包丁一本、さらしに巻いて
旅に出るのも 板場の修行♪
「月の法善寺横丁 昭和35年  藤島恒夫」

この唄を聴くとスケッパーとあんベラを手に持ち、パン屋で修行していたときのことを思い出す。
あの頃は、食パン生地をスケッパーで分割しまくり、菓子パン生地にあんを包みまくっていた。

近所に繁盛しているパン屋がある。
ときどき買いに行くが、人手が足りないのかいつも忙しそうだ。
社長らしき人物を見かける。声を掛けてみるか……。

職場では元パン職人として、働いているMさんがいた。
パート扱いで午前中の4時間限定、成形専門です。腕はさすがに一流。
でも、フランスパンの成形だけは苦手のようでこのときは参加していませんでした。

性格は明るく、穏やかで何も問題はありません。なんでも指示通りに、こなしていきます。
店の段取りやパンの作り方に関して、一切、口出ししません。
それが良いのです。さすがわかってらっしゃる。

その日は店長が休みの日でした。
代わりの人を入れることもなく、残りのメンバーですることになりました。
お客さんが少ないと予測できた日と、元パン職人Mさんが入ってことで
仕事内容は、前よりも少し楽になっていたんですね。
実際、ひとりひとり少しづつペースを上げて、充分、やっていけました。

お昼になって、自分を含めた3人で外食に出掛けました。
いつもは職場で用意してくれている弁当ですが、あいくその日はお休み。
3人はタイミング良く同じ時間帯にお昼に手が空きました。せっかくなら3人でとなったのです。
今、覚えば、よくそんな偶然が重なり、大胆に3人で外食ができたものです。
社長が来るとすれば、昼だいぶ過ぎだとわかっていたし、
厳しい店長が休みで気が抜けて浮かれていたとしか思えません。
後にも先にもこのとき一度だけです。同時に職場に職人がいなくなるのは。
Mさんはお昼に終わって帰る時間です。一緒にどうかと尋ねても断りました。
昼飯は家に帰れば、奥様が用意してくれていますからね。急な話だし。
問題点がひとつだけ、ありました。
窯の中に「12本の食パン」が入っています。焼成時間は40分。
休憩時間は1時間。40分がタイムリミットです。

それがもう完全に忘れていたんです。食事中、窯に食パンが入っていたことが!
気付いたときは、さぁ、店に戻ろうかというときで、すでに40分になっている!!
血相を変えながら、みんな走りました。5分は間違いなく過ぎるだろう。
店に戻ったときと、Mさんが食パンを出し終えて、ケースを拭いていました。
なぜ、Mさんが?!
Mさんは、みんな一緒に食事に出掛けるときに、何も言いませんでしたが、
そのあいだ、職場で何かあったらいけないから、残ってくれていたのです。
普段なら帰っている時間なのに。窯に食パンが入っているって言ってなかったのに。
間違いなく戻れると思っていた。みんなで職場を空ける、時間を忘れる。大きな過ち。
Mさんには、涙を流さんばかりに感謝しました。
私は、数ヶ月後にこのパン屋を去りましたがMさんと別れるときに
このときのことを言って手を握り締めました。

 

○ パン屋経営者・パン職人(人) 

パン職人デトロ

 

パン職人のことをあれこれ書いていて、そういえば・・・。
自分もパン職人だった。(笑)
人のとこをとやかく言う前に、あんたはどうなんだ? 仰る通りです。

客観的にみて、自分はどうなんだろう。
タイプは、ファイターではないなぁ。
気合を入れて、ガーとすることもなく、冷静に段取りを進めていきます。
ミスは多かったけど、その分、勉強になりました。
ミス慣れで、的確に対処できるようになり慌てることもなくなりました。
今は、ほとんどミスはないですね。

技術的には、経営者として何でもひとりでしていたのでまぁ、一通りはできます。
むちゃくちゃ早いということもなく、たんたんとこなします。
ひとりでしていると、動作は遅くなるんですよね。
人がいて刺激があって上達する部分はあります。ひとりだとダメです。
あと、1日15時間も働いていると、体力を使いすぎると後半がもたないんです。
ペース配分していると余計に遅くなります。それが普通になってしまう。

研究も含めて、自分のやりたいことは全部しました。
でも、したくないことは全然、しなかったのでわからないことはまったくわかりません。
経験がないからで、ドイツパンやライ麦パンが該当します。
天然酵母も本格的にしなかったので、苦手の分類です。

経営者でひとりでしていると自分で研究することになってくるので、
その気がないと全然、成長しませんね。
他にパン職人がいて、詳しい人がいて教えてもらうと別ですが。
どうしても自分の考えに偏ってしまう。
利点といえば、研究がしやすく納得するまで好きなようにはできます。

パンの知識はある方だと思います。
このサイトを作るにあたって、そうとう勉強しましたからね。
それは自信があるかな。

自分を評価するのは難しい。
なんでこんなに難しいといえば、25年以上ひとりで仕事しているからです。
(うんうん唸って、今気付きました)
現在、自分はパン職人として、どんな感じなのだろう。
世間のパン職人はどうなんだろう。
それが一番、興味があります。

 

 

戻る←ワニ男  残雪(裏)→進む

 

コメント