パン職人との出会い たまらんパン職人たち

◎ エッセイ

 

○ パン屋経営者・パン職人(人) 04/16/2017

パン職人との出会い

 

パンの本に登場するパン職人は、立派な人が多い。
読んでいると、「さすが、パン職人!」
そう思われるかもしれませんが、実際はそうでもない。
ピンからキリである。(私がいうほどでもないが)

パン職人に必要な要素は、技術と体力とやる気です。
(最も重要なのは人間性ですが、それはさておき)

技術は、毎日していることなので誰しも修得していきます。
製パンには色々な技術がありますが、パン職人として一定のレベルはあること。
人によってかなり技術差はあり、
修得途中であっても、技術力が上がっていくのが見えればよい。

体力は、長時間、動けること。
パン職人の多くは、長時間、働いています。
ですが、長い時間でもそうは感じないものです。
厳しい環境であっても、充実感がそうさせているのでしょう。

やる気は、大切です。
これがなければパン職人として、長くは続かない。
センスというのは必要だけど、絶対的要素ではない。
ほとんどの人は何らかの長所があるものです。
製パンのセンスは、ほとんどないけれど、
性格が良くて重用されている人もいるくらいです。 (「ワニ男」を参照に)

職業によっては身体能力、頭脳を問われることがありますが、
パン職人はそこそこで大丈夫。
(もちろんあれば、あるだけ良いが、求め過ぎるとほとんど誰も働けない)

つまり、パン職人は、やる気があり続けることができれば、OK。
パン職人は、技術者として報酬をもらっているせいなのか、
性格を押し殺すようなことは少なく、個性でぶつかり合うことが多い。

今までたくさんのパン職人と出会ってきました。
身体的に背の高い、低い。手が長い、短い。器用、不器用な人など。
性格も様々です。まじめな人から、ふまじめな人。(パンに対することはまじめ)
頭の良い人、悪い人。(頭は悪いなりにがんばる。人のことはいえないが)
頭で考えてから行動する人、頭より先に行動する人。(行動する前に必ず、口が動く人もいます)
製パン技術も得意、不得意があります。全てが一流な人はそういない。

私は、パン屋で働いていて、苦しく悲しいことは何度もありました。
それよりも楽しい気持ちが強く、充実感でいっぱいでした。
それは、出会ったパン職人との触れ合いであったことが大きい。
なかには、このパン職人、たまらんなぁ。と、思うことも多かったですが……。

 

○ パン屋経営者・パン職人(人) 04/16/2017

たまらんパン職人たち

 

H先輩はパン屋で働きながら、バンドを組んでいました。
これ自体変わっています。朝型のパン屋と夜型のバンドを組んでいるとは。
長髪でしたが、髪を束ね帽子をかぶっているので問題はないのですが、
年配のパン職人の方々は嫌な顔をします。
「H、いい加減、髪切れ!」ときおり、叱られます。
何度か、言われているうちにH先輩も切れてしまいました。
「僕のこの髪は魂です。絶対に切りません。会社を辞めさせてもらいます」
店長にタンカを切り、辞めてしまいました。
それから、2ヶ月後くらいです。
僕はH先輩と仲は良かったので、一緒に居酒屋に行きたいと思い、家に電話をしました。
お母さんが出られ、「息子なら自衛隊に入って、今、寮にいますよ」
愕然としました。あの長髪は、魂ではなかったのでしょうか。
自衛隊に入隊すると髪は短くなります。

S先輩は身体がごっつい人で、パン職人でありながらプロのボクサーを目指していました。
窯の担当で、仕事に余裕があるとき、よくボクシングの話をしてくれて、
暇さえあれば、シャドーボクシングをしていました。
プロテストの2回目が落ちたとき、「パン屋で働きながら、プロのボクサーはあかんのか」
S先輩は辞めてしまいました。よくわからないけど、ちょっと変わった人だな、と思いました。

H先輩、S先輩と一緒に働いていた頃は、バブルの時代でした。
今、思うと、ずっとパン屋で働く気持ちは、なかったのでしょう。
仕事自体は一生懸命だったんですけど、あの頃、みんな浮かれていましたから。
そうそう、歌手希望で、時間があれば歌ってばかりの人もいました。
それがあまり上手ではなくて、ふと、あるときパートのおばさんに
「歌手希望のわりに、歌はあんまりうまくないね」
まともに言われ、しばらくして辞めてしまった人もいました。

やる気爆発のT後輩もいました。
T後輩はいかにも気合重視で動きは派手にがんばっていました。
その甲斐があり、すぐに窯の担当に任命されました。
動きはすばやいけど、仕事は雑であわててのミスが多い後輩です。
ミスがあったときは、よく注意します。
窯を初めて間もない頃、ミスはどうしても、つきものですが、
流されてそのままになるより、同じミスをしないようにするためです。
そのうち、T後輩はミスをするたび、横の壁に自分の頭をガンガン叩き、
「くそ~。やってもうた!!」 ガンガンガン。
そうすると、周りの人は、注意ができにくくなるんですよね。
頭を叩く日が何度か続くと、ついにTの額は割れて出血しました。
一度、額は割れると、また出血しやすくなります。
もう、そんなことをしないだろうと思っていると、今度は壁に足蹴りをしました。
「くそ~、くそ~、くそ~」 ガンガンガン。
壁に足蹴りする日が何度か続くと、今度は足の付け根の関節がずれてしまいました。
すぐ接骨院に行き、治してもらうと、しばらく安静で通院でなんとかなるようでした。
復帰して、また窯の仕事をはじめるとき、横の壁には張り紙がありました。
「ミスをしたあとの自虐行為は禁止」
さすがにミスをしても、何もしなくなりました。

フランス人というと傲慢で自分本位で物を考える性格。私にはそんなイメージがありました。
パン職人のフランス人のミッシェルさんはそうではなかった。
人にやさしく、ときには厳しく、周りに気を配ります。みんなから慕われていました。
来日してから、日本語をマスターした頭の良い人でもあります。
この職場は変な性格の人が多く、一番まともな人のような気がして、
そのようなことをミッシェルさんに言うと、「わたし侍ね、あはは」 陽気に笑っていました。
ある日、ミッシェルさんは、ニコニコして、「昨日はラッキーだったよ」
何があったのか聞いてみると、
昨日、会社からバイクで帰っていく途中、白バイに捕まってしまったのです。
スピード違反でしたが、警察官が何を言ってもフランス語で応答しまくり、
免許書だけ見せて許してもらった。と言うのです。
「あはは、よかったですね」
……侍はそんなこと、しないと思うのですが。
聞いたところによると、日本語を勉強するために仕事中に大声で、
「フ、ラ、ン、ス、パ、ン」 などと叫んでいたそうです。
勉強のためですが、来日当初から女性の日本語家庭教師も紹介してもらっていました。
それで早くに日本語をマスターしたのかな、と思いきや、その女性が結婚相手です。
ミッシェルさん……それって……。

 

 

 

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