パン屋経営者になった パン職人からパン屋経営者への質問

◎ エッセイ

 

○ パン屋経営者・パン職人 04/17/2017

パン屋の経営者になった

 

タイムカードを押そうと手を伸ばす。仕事を始める前の儀式のように。
押し忘れになりかけると誰かに指摘される。
「おい、カード押してないぞ。忘れんな、ボケ! 役員にもでもなったつもりかっ!」
悔しさにグっと奥歯を噛みしめる。偉そうにすんな! 何様のつもりだ。
万年平社員のあんたに言われたくねーよ。聞こえないように頭の中だけで反響させる。
そうなことがあったか、なかったか。
タイムーカードを押すのは、働いている時間を記録するため。
契約社員であれば、ほとんどの人が行っている行為であり、
「会社で働いている」ことを否応なしに意識させられる。

当たり前の行為だったタイムカードを押すこと。それが開放されたときに強く実感した。
経営者になった! バンザーイ!!
喜んでいる場合ではない。のちのち気付くことになる経営者になるとはどういうことか。

経営者でまず、いわれるのが、「人、物、金」の3つ。
それは、優秀な人物の確保、人の指揮と教育、質の高い商品、お金の管理、運営です。

人を動かすのは難しい。思い返すと自分がそうだった。
人には散々、迷惑をかけた。ミス、ミス、ミスのオンパレード。
仕事のあとに彼女とデートとなれば、浮き浮きミッドナイト。
その跳ね返りが来たようだ。因果応報かっ。
おーい。俺の言うことを聞けー。社員どもー。

パンがおいしければ、いくらでも売れる?
そのなのは大昔の話ですぜ、旦那。今の時代、それだけじゃいけねぇ。
パン屋の修行時代、いかにおいしいパンを作るかで情熱を燃やしてきた。
製パン技術には誰にも負けない。
まぁ、少なく見積もって世界で2番めの腕前なんだぜ。
甘い。甘すぎる。甘いパンが売れたのは昭和の時代。時代が変わったんだよ。
ところで、おいしいパンを売っているというのは本当か? 自己満足じゃね?
自己満足してるだけのパンをなんて言うか知ってるかい?
知らないか。教えてやろう。「自己パン」て言うんだぜ。
……まぁ、今、作ったんだけどさ。

金、金、金。世の中、金だー。世間は金で動いてる。
パンを売って、金が入った。
やったね! 母ちゃん。今晩はすき焼きにしようぜっ。
たわけ者ー。
パンを作るには金がいる。材料費だけじゃねぇ。
電気、ガス、水道の公共料金に電話料金。人件費。包装資材の消耗品に機械の修理費。
パン1個売れても、材料費以外にどんだけ金がかかるか、わかってるのか?
パン屋でパンを作るには、材料費以外でも膨大な金がかかるんだ。
右から左へ金の移動だ。
これがな。実は運営しだいで、いくらでも抑えることを知ってるか?
教えてほしいか。そうか……。
よし、それなら、金持ってこいー。金を積んだら教えてやるぜっ。

長年の夢であるパン屋の経営者になった。
一年もしないうちに現実を思い知るだろう。どれだけ大変かを。
反面、楽しいことがあるんだ。
それはもうパン屋の経営者になった者しかわからない甘美な世界。
すべてを注ぎ込み、おいしいパンができた達成感。
パンの売上が予想以上。スタッフの歓喜の笑顔。充実した日々。
詳しく口で説明することかできない。まして、文章にする筆力もない。
パン屋に経営者になってみないかい?
本当におもしろい世界なんだから。
苦労はしても、楽しさ100倍だぜっ。

 

○ パン屋経営者・パン職人 04/17/2017

パン職人からパン屋経営者への質問

 

パン屋経営者は、パン職人から、かけられる言葉で一番多いのが、
「パンを仕込みから焼成まで、ひとりで全部するのは大変そうですね」

これを読んで、パン職人たちにとっては、そうそう。
パン職人以外の人には、へ~、そうなんだ。

パン職人にとって、仕事は分業制であり、
ひとりで生地の仕込みから出来上がるまで全部するというのは、
ちょっと想像つかないんですね。私もそうでした。

返す言葉として、
「作る量が違う。ひとりで作れる範囲であるから、ひとりで作っているわけで慣れたらなんてことないよ」
「へ~、そうなんだ。そういうもんですか」
パン職人たちは想像つかないから、そうなってしまう。

実際、ひとりで全部してみると、すごく勉強になります。気付くことがたくさん出てきます。
材料が混ぜ合わさって、生地が出来て、発酵させて焼く。
生地の状態で、それぞれの工程で対応しながら、最後のパンまで作っていくのは楽しい。

それをパン職人が体感できない。というのが残念でならない。
自分で何から何まで好きなようにする。簡単なようで難しいこと。
それは、すべての責任を持つことになる。
パンそのものが、その人すべてを表すことになるからです。

 

 

 

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